
結論:AIや社内システムを、会社に定着させるコツは、一気に変えず、小さな部分から始めることです。まず、1週間だけ、10分ごとに線を引いて、何に時間を使っているかを記録し、集計します。そこから、いちばん面倒な作業を1つだけ選んで、楽にします。定着の決め手は、使い方を覚えさせることではなく、「面倒な作業を、できるだけなくすこと」です。
10月から、全国で最低賃金の改定が順次始まっています。人手が足りず、人件費も上がるなかで、AIや社内システムを入れようとする中小企業が増えています。一方で、「入れたのに、いつの間にか使われなくなった」という経験をお持ちの方も、少なくないのではないでしょうか。このコラムでは、特別な知識や大きな費用がなくても始められる、定着させるための進め方を、順番に説明します。
なぜ、AIや社内システムは、入れても定着しにくいのですか?
よくある原因は、次の4つです。
- 一気に変えようとする:全部の業務を、いっぺんに新しい方法にすると、現場が追いつけません。分からないことが増えて、元のやり方に戻ってしまいます。
- 使う人の手間が増える:新しい入力欄が増える、確認する画面が増える、といった「やることが増える」仕組みは、忙しいときに真っ先に使われなくなります。
- 効果が見えない:どれだけ楽になったのか分からないと、続ける理由がなくなります。
- 一部の人の頑張りに頼る:詳しい人が1人で支えている状態は、その人が忙しくなった時点で止まります。
共通しているのは、「使う人にとって、楽になっていない」ことです。逆に言えば、使う人が「楽になった」と感じる仕組みは、特別な呼びかけをしなくても、自然に使われ続けます。
どこから始めればよいですか? ー 「一気に」ではなく「細かい部分から」
最初にやるべきことは、新しいツールを選ぶことでも、使い方を変えることでもありません。いま、自分たちが、何に時間を使っているかを知ることです。知らないまま道具を入れても、「どこを楽にすれば効くのか」が分からないからです。
そのために、次の「1週間の時間記録」を、おすすめします。
1週間だけ、10分ごとに線を引いて、時間を集計してみる
方法は、とても簡単です。
- 用紙を1枚用意する:縦に、始業から終業までの時間を、10分ごとに区切った表を作ります(ノートに横線を引くだけでも構いません)。
- 10分たつごとに、線を1本引く:その10分で、何をしていたかを、一言(または記号)で書きます。「見積」「電話」「探しもの」「転記」「会議」のように、短い言葉で十分です。
- 1週間続ける:毎日でなくても構いません。続けられる日だけでも、傾向は見えます。
- 週の終わりに集計する:同じ言葉の線の数を数えます。線1本=10分ですので、「転記が、1週間で合計何本あったか」が分かれば、そのまま時間になります。

記録するときは、次の点に気をつけてください。
- 完璧を目指さない:書き忘れた10分があっても、気にしません。目的は、正確な時間ではなく、「どこに時間が溜まっているか」の傾向をつかむことです。
- 記録のために、作業を増やさない:1本の線に、一言だけ。詳しく書こうとすると、続きません。
- 評価には使わない:この記録は、「誰がさぼっているか」を探すものではありません。人の評価に使うと、正直に書かれなくなります。最初に、「仕事を楽にするための記録です」と伝えておきましょう。
- 最初は1〜2人で:全員でやらなくても構いません。まず、仕事が忙しい人、または、いつも同じ作業をしている人から始めます。
集計から、何が見えてきますか?
集計が終わったら、次の4つの目印を探します。
| 目印 | 見つかりやすい作業の例 |
|---|---|
| 同じ作業を、何度も繰り返している | 毎回同じ文面の返信、毎回同じ書類のコピーと貼り付け |
| 探している時間が長い | ファイルや資料、前回の見積、お客様の情報を探す時間 |
| 同じ内容を、何度も入力している | Excelから別の表への転記、紙の伝票からの入力 |
| 待ち・確認・問い合わせが多い | 「あれ、どうなってる?」と聞く、聞かれる時間 |
この中から、「いちばん面倒だと感じる作業」を、1つだけ選びます。複数を選ぶと、また一気に変えることになってしまいます。数が多い作業と、「やりたくない」と感じる作業が、一致していることも多いです。
定着の決め手は、「面倒な作業を、できるだけなくすこと」
選んだ作業を楽にするときは、次の考え方を大切にします。
- 手順を足さない、減らす:新しいツールを入れると、手順が増えてしまうことがあります。増えるくらいなら、入れない方がよいです。「入力が1回で済む」「コピーが要らなくなる」といった、減る方向を選びます。
- いつもの道具の上で:使い慣れたExcelやメールを、そのまま使えるなら、その方が定着します。新しい画面に慣れる手間は、思っている以上に大きいからです。
- まず、本人が楽になること:「会社のために入力してください」ではなく、「あなたの作業が、こう楽になります」を先に作ります。楽になった人が、自然に周りへ広めてくれます。
- 人に頼らなくても動くこと:詳しい人が毎回操作しなくても、続けられる形にします。
たとえば、次のような小さな改善が、定着しやすい例です。
| 面倒な作業 | 小さな改善(例) |
|---|---|
| 毎回同じ文面の返信を、一から書く | ひな形を1か所にまとめ、必要な部分だけ書き換える。AIに、ひな形の下書きを作ってもらう |
| Excelの表を、別の表に転記している | 転記をやめて、1つの表から集計する。あるいは、関数やマクロで自動化する(Excelの関数をAIに作ってもらう方法) |
| 資料や過去の見積を、探すのに時間がかかる | 置き場所を1つに決める。ファイル名のルールを、1行だけ決める |
| 「あれ、どうなってる?」の確認が多い | 進み具合を、1つの表(または簡単な画面)で、誰でも見られるようにする |
どんな流れで、小さく始めればよいですか?
4週間を目安に、次のように進めると、無理がありません。

- 1週目:記録する。10分ごとに線を引いて、時間の使い方を記録します。
- 2週目:集計して、1つ選ぶ。集計し、いちばん面倒な作業を1つ決めます。
- 3週目:1つだけ、楽にする。決めた作業だけを、AI、Excel、小さなシステムのどれかで楽にします。ほかの作業は、そのままで構いません。
- 4週目:使った人に聞いて、続けるかを決める。「楽になったか」「面倒になっていないか」を聞きます。楽になったなら、次の1つへ。ならなかったなら、やり方を変えます。
これを繰り返すと、少しずつ、確実に、定着した仕組みが増えていきます。AIの導入の全体像は、AI導入の進め方のコラムも参考にしてください。
定着したかどうかは、どう確かめますか?
次の3つを、確認します。
- 時間が減ったか:改善の前と同じ方法で、1日だけ、もう一度記録します。同じ作業の線の数が減っていれば、効果が出ています。
- 使うのをやめた人がいないか:使わなくなった人がいたら、「面倒だった所」があるはずです。叱るのではなく、理由を聞きます。
- 誰か1人の頑張りに頼っていないか:詳しい人が休んでも、動き続けるかを確かめます。属人化の防ぎ方は、属人化を解消する方法のコラムもご覧ください。
外部に相談するのは、どんなときですか?
集計で見つかった作業が、AIやExcelの工夫だけでは減らせないときは、小さなシステムにするのも、1つの方法です。SaCのシステム開発では、業務を1つに絞った小規模な開発(10万円(税別)から)をご用意しています。「どの作業を減らすと、どれくらい効果があるか」の目安は、SaCの時間削減シミュレーターで試算できます。参考値ですので、効果を保証するものではありません。
AIを社内で使うときの決まりごとは、生成AIの社内ルールのつくり方のコラムで、解説しています。
人件費が上がるなかで、作業を減らす考え方は、最低賃金と省力化投資のコラムでも解説しています。
よくある質問
Q. 10分ごとの記録は、忙しくて続けられません。
1日だけ、半日だけでも構いません。タイマーやスマートフォンの通知を、10分おきに鳴らすと、書き忘れにくくなります。それも難しければ、30分ごとでも、傾向はつかめます。大事なのは、細かさではなく、「どこに時間が溜まっているか」を知ることです。
Q. 全員でやった方が、よいのでしょうか?
最初は、1〜2人で十分です。仕事が忙しい人や、同じ作業を繰り返している人から始めて、効果が見えてから、周りに広げます。全員に一斉にやってもらうと、「やらされている」という空気になりやすいです。
Q. 現場から、反発が出そうです。
「評価のための記録ではなく、仕事を楽にするための記録」と、最初に伝えます。そして、記録した人の作業が、実際に1つ楽になることが、いちばんの説得になります。小さくても、早く「楽になった」を作りましょう。
Q. 集計して、改善できそうな作業がなかったら?
その場合は、すでに効率のよい状態だと考えられます。ただし、記録に出にくい「考える時間」「待ち時間」が隠れていることもあります。ほかの人の記録も取ってみると、見え方が変わることがあります。
まとめ:一気に変えず、「面倒な作業」を1つずつ減らす
AIや社内システムを、会社に定着させる近道は、特別な研修や、大きな仕組みではありません。1週間、10分ごとに線を引いて時間を集計し、いちばん面倒な作業を1つだけ減らす。これを、少しずつ繰り返します。使う人が「楽になった」と感じる仕組みは、無理に続けなくても、自然に使われ続けます。
「自社では、どの作業から減らせばよいか分からない」「記録の見方を、一緒に確認してほしい」という場合は、SaCのAIコンサルティングで、ご相談いただけます。顧問型のAIコンサルティングは月額8万円(¥80,000)からで、初回のご相談は無料です。社員向けの研修をご希望の場合は、AIセミナーもご用意しています。まずは、お問い合わせから、お気軽にご相談ください。